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No.35

#鉱石の森

1.Rock Crystal
彼女の重要な仕事



 なぜ私はこんなことをしているのか。


 そうだ、私は氷を探していたのだ。

 果てしなくも感じられる時間の中で、稚彩葉(わか いろは)は氷を探していた。
 長い時間そうしていたので、一瞬意識が遠のいたようだ。

 ベルトコンベアから流れてくる透明な塊を手に取る。

 冷たい、溶ける、これは(アイス)
 冷たくない、固い、これは水晶(クォーツ)

 忙しなく流れてくるものを仕分ける。
 氷はそのまま奥に流し、別のものは下に置いてある籠へ放り込む。

 同じラインには誰もいない。
 奥の方、つまり氷の行きつく出口の方、は遠くてよく見えない。

 彩葉は向かいの壁にある時計をちらと見た。
 作業の終了時間までまだあと1時間20分もある。

 これは氷晶石(クリオライト)、これは魚眼石(アポフィライト)

 なんてこと。

 水晶ならいざ知らず、こんなものまでここに流れてくるとは。
 前行程の連中に、ちゃんと仕事しろ、と言わなくては。

 でも同じ透明なもの、見分けなんて一見しただけではわからないだろう。
 一人でここまでやっているのだ、安い給料で、と珍しい2つの石は自身への報酬だとポケットへ放り込む。

 時計を見る。
 あと1時間。

 この仕事が終わったら、今日公開した映画に行くつもりなのだ。
 原作のファンであったので、映画化は楽しみにしていた。と同時に不安でもあった。
 たいていこういうメディア化は、原作ファンには受け入れられないものなのだ。
 それは先に自分のイメージがあって、後から他人のイメージを押し付けられるような感覚なのかもしれない。
 それでも、ワクワクする気持ちも本当だ。
 好きだという気持ちは複雑なのだ。

 彩葉は、その期待をなんとか利用して、あと1時間の仕事を頑張ることにした。

 これは水晶、これは…ガラスだ。
 ガラスまで。

 手袋をしているとはいえ、尖ったガラスは危ない。
 怪我でもしたらどうするのだ。
 これは絶対に叱ってやらなければ、と彩葉は決意した。

 時計を見る。
 あと40分。
 時間は中々進まない。
 けれども確実に終わりの時間は近づいている。

 あと30分。
 あと少し…。

 そのとき。
 奥の、氷が消えていく出口の方からガリガリ、と大きな機械音が聞こえた。

 氷を砕いている砕氷機の音だ。
 この機械は氷が一定量溜まると動き出す。
 そして細かく砕いた氷は雪となって地面に降る。

 あぁ、長かった。やっと終わる。
 そして明日はきっと雪が積もる。
 これだけ頑張ったのだ。

 ただし、機械の操作人の気まぐれ、もちろん気分次第だが。


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1142文字, book

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宙星瑠(そらりる)

クリエイター、万年社会人大学生

No.∞/SUZURI